担当:近藤昭彦
“水文”とは水の循環、“環境”とは人と自然が相互作用する外界、“シミュレーション”とはこの世の中を観察する手法です。三つあわせると、地球上における水循環と人の活動の相互作用をシミュレーションを通して観察するということになります。シミュレーションというと数値モデルを思い浮かべることが多いと思いますが、アスリートが試合前に状況を頭の中で思い浮かべることもシミュレーションではないでしょうか。水を通したこの世の有り様を観察し、理解することをこの講義の目的とします。
【第1話】シミュレーションとは? |
【第2話】環境とは何か |
【第3話】水と食料 |
【第4話】水と植生 |
【第5話】シミュレーション入門 |
いろいろなことを話しました。わからないことがあったら質問をください。
複雑なモデルは科学におけるチャレンジです。でも、モデルの複雑さは人間の分析能力を超えてしまったのではないか。モデルが語る本質的な予測とは何なのか。じっくり考えてみる必要があります。
インド北部は夏の稲作の後作は雑穀でした。しかし、小麦の需要が増大し、価格が高まるとともに麦作が行われるようになりました。そうすると稲作の直後に麦の種まきを行う必要があり、米収穫後の稲株は焼却するのが一番低コストで簡単です。でも、煙が周辺に大気汚染を引き起こすようになりました。さて、どうするか。京都にある総合地球環境学研究所のプロジェクトです。
この地球研プロジェクトのと連携した成果の一部をまとめたのが、羽生淳子ほか偏著「やま・かわ・うみの知をつなぐ」(東京大学出版会)。この中に閉伊川上流の山村の雑穀文化の話、水害時の住民の対応に関する話がありました。在来知と科学知と、我々はどちらに頼るべきか。どちらも。
近藤が学部生の時に使った教科書。これで差分法を学びました。著者の戸川隼人氏は当時の私の神様でした。アマゾンで古本が買えるようです。 最近の教科書はよく知りませんが、コンピューターを知るには自分でプログラムを作成して、動かしてみること。これが大切です。コンピューターに使われるのではなく、コンピューターを使うことができるようになります。
モンゴル高原における草本植生のリモートセンシングについては手前味噌の論文には下記があります。
①近藤昭彦・開發一郎・平田昌弘・アザヤドルゴスレン(2005):モンゴル草本植物のフェノロジーとバイオマスの年々変動.沙漠研究、14(4)、209-218.
②平田昌弘・岸川沙織・近藤昭彦・山中勤・開發一郎・ダムディンバトムンフ・本江昭夫(2009):モンゴル高原中央部における植物の生育に影響を及ぼす自然環境の諸要因の分析.沙漠研究、19(2)、403-411.
③布和宝音・近藤昭彦(2015):衛星リモートセンシングによる内モンゴル自治区における2000年以降の植生変動とその要因解析.沙漠研究、24(4)、367-377.
④布和宝音・近藤昭彦・崔斐斐・孫バイ・沈彦俊(2014):統計年鑑から見た中国内モンゴル自治区の2000年以降の土地利用状況.沙漠研究、23(3)、101-108.
⑤崔斐斐・近藤昭彦(2014):東アジアにおける黄沙の発生と地表面状態の関係.沙漠研究、23(3)、85-92
論文はJ-Stageで入手できます。ブラウザで論文のタイトルを入力して、検索するとPDFをDLできます。論文情報の検索についても学びましょう。
講義名が水文・環境・シミュレーションですので、環境について知っておく必要があります。環境とは、人と自然が相互作用する範囲です(突っ込んだ定義は講義で)。中心に自分を置いてみましょう。どんな環境、すなわち自分が関係性を持つ範囲が見えますか。どんな世界(哲学的な意味での世界です)を観ているでしょうか。その世界で見えていないものはありますか。
次に、視点を自分の位置からずうっと引いて、あなたの環境の外側に視点を置いてみましょう(これもシミュレーション)。自分の世界はどのように見えますか。 どんな広がりをもっているでしょうか。あなたの世界の外側に広がる世界は見えますか。そこでは、どのような関係性があるのでしょうか。
こんなことを考えながら、世の中の有り様を観察する習慣をもつと、だんだん世界の様子が見えてくるのではないかな。 いろいろなことを学びたくなるのではないかな。
コメント、補足
人はそれぞれ異なる時代を生き、時代ごとに異なる精神的習慣が形成される。現在という時点では多世代が重なり合っているため、様々な精神的習慣が同時に存在するが、時代を動かす精神は強い世代に偏る。現在は高度成長期を終え、低成長期に入ったが、成熟期に向かうためには様々な世代の考え方を俯瞰し、現在の状況を的確に理解し、未来を展望する必要がある。環境、すなわち人、自然、社会の関係性の理解がその前提である。
小林信一氏の上記の論文は考えさせると思います。もとになった、オルテガの「大衆の反逆」は訳本が2種類出ています。ひとつは寺田和夫訳(中央公論社、2002年)、もう一つは佐々木孝訳(岩波文庫、2020年)。佐々木訳の帯に書かれている文章を再掲します。「自分たちの生活が誰によって創られ、維持されているかを想像することなく、自らに課せられた使命や義務を考えようとしないとき、私たちは誰も『満足しきったお坊ちゃん』である。オルテガの本を読み、これを『新鮮な自己批判の書』として読む理由はそこにある。」(本書解説より)。
[私見] 「ほどほどの文明人」もありではないか。自然志向が強く、里山的な暮らしを好むが、生活の中に科学技術の成果を取り入れ、いざとなったら宇宙船も操縦できる(スターウォーズの隠遁中のオビワンやヨーダ、スカベンジャーをやっていたレイさんなど)
これは大熊孝著「ローカルな思想を創る① 技術にも自治がある-治水技術の伝統と近代」、農文協現代選書253からの引用です。「スナフキン」と「寅さん」もここから引用しました。ぜひ、お勧めしたい本です。
文科省の日本語訳がここにあります。これは行政文書ですから、たくさんの国々の間の折り合い、妥協の産物ともいえます。背後にどんな思想があるのか、地理的、歴史的観点からじっくり考えてください。経緯についてはこれが参考になるでしょう。
科学史を記述した書籍はたくさんありますが、近藤のお勧めは古川安著「科学の社会史-ルネサンスから20世紀まで」(ちくま学芸文庫)です。21世紀に実現しなければならない“もうひとつの科学”には私も夢を描いています。夢とは、実現を前提として、計画的に粛々と未来に向かって歩む先にあるものです。
コメント、補足
WEB上にある文章は信頼できる機関が発行しているものか、確認しましょう。シンクタンクの文章は、特定の主義、主張に基づくものもあります。単に受け入れるのではなく、同様の課題に対する異なる主張もあるのかどうか、探索してみると良いでしょう。学術論文は査読制度により質が保証されている文章ですので、信頼することが前提の文章です。J-STAGEに登録されている学術論文を探索する方法も学んでください。
おもしろい内容だと思います。マクロな視点における見方であることに注意。地域における農の営みという別の世界もある。食料の各国間のフローもよく見てください。その他、「食料需給」で検索して文書を探してみよう。
各国の作物生育広域モニタリングのモデルの紹介があります。 “広域”であることに注意。何のためのモデルか、考えましょう。
日本の農業政策には二つの潮流があるように思います.ひとつは経済指向、都市指向、農業を工業と同一視する見方、いろいろな言い方ができますが、この記事もそんな立場からの意見だと思います。もう一つは地域、コミュニティー、自然との共生、地域づくりといった方向で、20世紀後半の成長志向の雰囲気に対するオルタナティブな考え方です。農水省の政策にも二つの考え方が混在しており、日本の将来を考える方々は進む方向性をしっかり峻別する力を養ってほしいと思います。
近藤の連絡先は kondoh@faculty.chiba-u.jp(半角にしてください)