2018年9月9日 「小櫃川の水を守る会」で講演しました。

平成の名水百選 生きた水の里久留里

講演資料

地下水を駆動するものは、地下水面における標高(位置ポテンシャル)です。湿潤国の日本では高所(尾根)では地下水面が高いため、地下水は高所で涵養され、ほとんどは直近の低所(谷)に流出します。上総丘陵における地下水流動の場である砂泥互層は透水係数の異方性(水平方向の透水係数が、垂直方向より大きいこと)としてとらえることができ、鉛直方向における大きな水頭勾配を発生させます。谷底では深部の水頭は地表より高くなり、井戸を掘削すると自噴が生じます。

高所(尾根)において涵養された一部の地下水は、地域流動系として数万年スケールの悠久の地下水流動の旅に出かけることになります。久留里の自噴井は氷期に降った雨ということができるでしょう。その古さ故、涵養域を汚してしまったら、影響は長期にわたり継続します。

上総丘陵の一部を汚してしまった場合、科学的に考えると、汚染水はほとんど近傍の谷に流出し、河川水を汚染するでしょう。一部が地域流動系に入るとしても、下流の町の自噴井に影響が出るまでには万年オーダーの時間がかかります。流線が井戸に到達するかどうかもわかりません。

だからといって、現在の繁栄のために水源涵養域を汚してよいということにはなりません。なぜ汚さなければならないのか、その便益を受ける者は誰か(受益者)、リスクは誰が負担するのか(受苦者)の関係性を知ることによって、合意を形成しなければなりません。理想的な社会とは、受益者と受苦者が分断されていない社会。そんな社会をめざして、自然とつきあっていきたいものです。