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講演の内容は千葉大学理学部地球科学科における学部専門基礎「水文学Ⅰ」(現在休講中)の中の「地下水」の章がベースになっています。地下水に関わる基礎的事項を講義します。若手技術者は工学的な解析手法は身につけているのですが、地下水の実態に関する知識が不足していることが多いとのこと。そこで、地下水に関する講義をやることになりました。講義資料は活用してください。
地下水を知るいくつかのポイント
水は水理水頭(hydraulic head)の高いところから、低いところに向かって流れます。水理水頭は位置水頭(高さ)と圧力水頭の和で表され、圧力水頭は大気圧を0(ゼロ)として記述されます。川は圧力水頭がゼロ(大気圧)ですので、水理水頭は高さだけで表されます。だから、川は上流から下流に向かって流れます。では、地下水は?地下の圧力水頭は地下水面より下では正、地下水面の上の土壌水帯では負になります。よって、地下水の水理水頭(位置水頭+圧力水頭)は上向きにも、下向きにも勾配を持つことになります。
地下水面から始まり、地下水面に還る流線が織りなす三次元構造を地下水流動系といいます。地下水は近傍の地下水面の高まり(尾根や台地)から直近の低まり(谷)に向かって流れる局地流動系、流域 の最高所から最低所に向かって流れる地域流動系とその中間の中間流動系が階層構造を織りなす三次元的な形をしています。循環する水の量は局地流動系が最も多く、Tothの計算ですと80%が局地流動系を通過するとされています。地域流動系は流動量は少ないのですが、貯留量が大きいため、揚水の影響が顕在化するまで時間がかかることが世界の(量的な)地下水問題の原因になっています。
地下水流動系の器である地層は水理的に連続しており、水分子より大きな空隙を持ち、透水係数はゼロではありません。地下水が涵養域から流出域まで流れる間はすべて水理的に連続しており、 難透水層を通過する地下水の流れも存在します。帯水層中に泥層のはさみがあると、その泥層の上下の動水勾配は大きくなるという特性が地下水流動系にはありますので、泥層(難透水層)があるのでひとつの帯水層の汚染の影響は上下の帯水層には及ばない、といった表現には注意してください。
地下水の流れは非常に遅く、何万年~何十万年前に涵養された地下水を使っていたり、何万年も前に形成された動水勾配が今も解消されていない場所が世界にはたくさんあります。身近に使っている地下水でさえ、数百~数万年の年齢を持つことがあります。地下水を使うときは、その履歴を考えてみませんか。 エジプトの沙漠地域で帯水層として使われているヌビア砂層では水位が1000mも下がっているそうな。確実に持続可能ではありません。地下水技術者はどうしたらよいのだろうか。
地下水のあり方は地域によって大きく異なります。地質、地理(気候や地形)の知識をベースに、地下水流動系の考え方を敷衍し、地域ごとに地下水のあり方を予見する力(経験的知識によって地下水のあり方を予想する力)を身につけてください。地下水理論といった普遍性はベースにあるもの。その上にある個別性が理解できるようになると、地域の問題に対応できるようになります。なお、ある程度経験を積むと、論文や書籍に書かれている経験を“わがこと化”することができるようになるでしょう。そうなったら、エキスパートです。