崔斐斐さん日中科学技術交流協会研究奨励賞受賞

日中科学技術交流協会2013年度中国人留学生研究奨励賞を崔斐斐さんが受賞しました。授賞式は2013年12月20日東京大学山上会館にて行われました。左が有山正孝理事長による証書授与の場面、中央が有山理事長と並んだ崔斐斐さん、右は李中華人民共和国駐日本国大使館公使参事官による祝辞。

崔さんの講演 論文概要


崔 斐斐
千葉大学大学院 理学研究科 地球生命圏科学専攻 博士課程在籍

 2013年12月、日中科学技術交流協会の「2013年度中国人留学生研究奨励賞」を受賞でき、大変光栄に思うとともに、日中科学技術交流協会理事長有山正孝先生及び協会の諸先生方に厚く御礼を申し上げます。このような機会を頂き、感謝の気持ちでいっぱいです。また、平素よりお世話になります指導教員である千葉大学近藤昭彦教授に心より感謝を申し上げたいと存じます。尚、これまで様々なかたちでご指導・ご支援をいただいた皆様に、深く感謝しております。
 中国国境の北沿いに位置する中国内蒙古自治区に生まれました私は、小さいごろからいろいろな所を見てみたいという夢を持っておりました。夢を叶えるためには自分自身の努力がとても重要だと考えており、2000年から2004年にかけて、ハルビン理工大学(2000~2002年)と中国地質大学(2002年~2004年)を卒業してから、日本への留学計画を立てました。日本語の勉強や手続きなどの準備で2年間を費し、ようやく2006年に日本に参りました。研究生として千葉大学に入学し、大学で専攻した計算機科学を自然科学への適用を重視することを考えました。幸運で近藤先生と現在の研究テーマに出会いまして、2008年~2010年にかけて修士課程修了し、博士課程進学しました。今現在は今までのデータや情報をまとめ、学位論文を執筆しております。
 今回の受賞の対象となった研究は、「東アジアにおける黄沙の発生と地表面の状態の関係」です。以下では、その内容につきまして簡単に紹介させて頂きます。
 黄沙は毎年発生していますが、その発生頻度は年によって異なります。日本における黄沙の観測のべ日数は2000年から2002年まで連続的に増加し、2003年は一転して急減しました。また、2006年にも増加傾向がみられましたが、この変動には気象要因だけでなく地表面状態の変化も関係していると考えられます。そこで、本研究では東アジアにおける黄沙の発生と地表面の状態の変化の関係を明らかにすることを目的としました。
 本研究では、衛星データを用いて、年間の黄沙の発生頻度が高い、消雪から展葉までの裸地期間の長さの空間分布を求めました。その結果、裸地期間の長さと黄沙の発生頻度は密接に関連し、裸地期間が長くなると黄沙の発生頻度が増加することが確認できました。特に日本における黄沙観測のべ日数と内モンゴル自治区東部の半乾燥域における裸地期間の変動が同期し、裸地期間が長い、そして黄沙の発生頻度が増加した年は、気温の上昇に伴い消雪時期が早まるとともに、展葉時期も遅れることが示唆されました。特に2002年と2006年の消雪時期は、内モンゴル自治区東部における複数の地点で通常の年より2~4旬(1旬≒10日)早かったことを確認できました。
 黄沙に起因する越境大気物質やガスによる広範囲な影響についての研究は少なくありません。侵食能と受食性それぞれの要因から説明されてきた黄沙の発生については、強風だけでなく、積雪や土地被覆も考慮する必要があります。よって、黄沙の発生は土地被覆と気候要因を含む複合的な観点から明らかにする必要があり、消雪時期・展葉時期・裸地期間の長さに注目して、その年変動と黄沙の発生の関係について空間的分布と年変化の観点から解析を行った本研究は今後の議論に有用であると考えられます。
 日本における黄沙観測のべ日数は中国における黄沙発生のべ日数とは対応しておらず、内モンゴル自治区東部における砂塵あらしの発生頻度と対応しているように見えました。従来の研究は日本で観測された黄沙の成分から、黄沙の発生域が東部へ移動していると報告しています。すなわち、モンゴル高原東部における黄沙発生数の増加と日本における黄沙観測のべ日数の増加が対応しています。
 本研究によって、春先の気温が低く積雪が多い年は黄沙が発生しにくいことと、春先の気温が高く、消雪が早い年では、黄沙が発生する頻度が高くなることが明らかにされました。これは黄沙の発生を容易にする裸地が出現するためですが、本研究では消雪時期の早期化は展葉時期の遅れとも関係があることを明らかにしました。これは春季が夏季の降水期間の前の短い乾期に相当するため、消雪後に植物が利用できる水分が減少し、展葉時期を遅らせている可能性があります。モンゴルにおける解析例ですが、春季の降水量が少ないと、その後の草本植生の成長が抑制されることを明らかにされています。半乾燥地域では消雪時期が早くなると春季の乾燥のために展葉時期が遅れ、裸地期間が長くなることが黄沙発生の頻度を高めている可能性があります。このことは今後予想される地球温暖化が春季の乾燥をもたらす場合、黄沙発生頻度が増加する可能性があることを示唆しています。
 最後にまとめますと、本研究では、衛星データを用いて、2001年から2007年の東アジアにおける黄沙発生頻度と地表面状態の関係に関する解析を行いました。特に、2002~2003年の日本における黄砂観測のべ日数の減少と中国における黄沙発生のべ日数の関係に注目し、ユーラシア大陸東部における地表面状態の変化との関連性を検討しました。 その結果、日本における黄沙の発生頻度は内モンゴル自治区東部の裸地期間の長さと関係しており、裸地期間が長い年は黄沙発生頻度が高い傾向が認められました。消雪の早期化と展葉期の遅延によりもたらされる裸地期間の長期化は、黄沙の発生を促進する地表面条件となる可能性があります。 モンゴル高原東部における地表面被覆と黄沙発生の関係の原因については草原の劣化、沙漠化等が考えられるので、現地の地表面状態を確認する必要があります。また、モンゴルのステップ地帯における発芽は降水のタイミングや気温とも密接に関係しているため、今後は降水イベントのタイミングや気温及び土壌水分との関連において解析を進める必要があります。このことは想定される地球温暖化による気温の上昇が草原生態系に与えるインパクトと関連しており、草原生態系の変化が黄沙の発生頻度に大きな影響を与える可能性を示唆しています。以上、私の研究内容を簡単に紹介させていただきました。
 8年間弱の留学生活で日本の素晴らしさよく感じました。自然や人文が一番印象的です。桜を咲く時期では、附近の公園に行くと、生きている自分が人間としての幸せを感じ、涙がでそうほどな感動です。普段生活などで困った時には、身近の日本の友人たちが忙しいにもかかわらず親身になって面倒をみてくました。日本人の方々の優しさが一番心に残っております。
 今年10月に博士号を取得するように努力してまいります。この頃は学位論文執筆で落ち着かないですが、残った時間を精一杯頑張り、有益な情報を収集し、黄沙の発生要因を事例ごとにまとめたいと存じます。皆様から頂いた大きなご恩は一生忘れません。また、このご恩に答えるために必ず優れた研究成果を上げて、今後、日本の環境技術の発展、および母国との技術交流に貢献して参りたいと存じます。
 最後に、日本でお目にかかった全ての方々の御幸運を祈り申し上げ、これからも皆さまのご指導・ご鞭撻・ご支援をお願い申し上げまして、受賞の言葉といたします。
(日中科学技術掲載予定)