(~2024.8)

2023年3月31日、28年間勤めた千葉大学を65歳で定年退職しました。25歳(博士課程入学)以降を研究者人生とすると、40年の研究者としてのキャリアを終えたことになります。この間、“科学”の“おもしろさ”を十分堪能することができたと思いますが、好奇心というよりは、隙間探索という点におもしろさを感じていました。他人の考えないことをやってやろう、見えていないものを見てやろう、そんな思いが駆動力になって自分の科学(学術)を支えていたのだなと思います。環境(人、自然、社会の関係性)が研究対象であり、総合的、包括的視点から環境を構成する(見えていなかった)諸要素とそれらの関係性の発見をめざす習慣をキャリアのなかで身につけることができました。キャリア終盤では問題解決型科学について考えるようになり、感性の重要性に気がつきました。感性がなければ問題のリアリティーに接近することはできません。高みで発信し、満足してしまうことは問題に対しては甚だ迂遠な解決手段でしかありません。リアルな問題を眼前にすると日本の学術のあり方についても考えざるをえなくなります。今、定年という節目を迎え、現場に身をおいて実践したいという思いが強くなりました。学術の価値を数値指標ではなく、問題の解決あるいは諒解の達成に置くことができれば良いと思います。写真は2012年5月6日に撮影した飯舘村長泥の峠の桜。長泥は2023年5月1日に避難指示が解除されました。それは12年にわたった問題の解決ではなく、諒解にすぎません。この諒解に科学は少しは役に立ったのでしょうが、やむを得ない諒解であり、その背景には狭義の科学では気づきえない感性の領域があるはずです。これまでの科学を超えた新しい科学が必要な時代に入ったと思います。そんなオルタナティブ・サイエンスをめざして与生を過ごしたいと思います。与生とは科学技術がもたらした追加の人生です。この貴重な与生を大切にしたいと思います。山村で暮らしたいものだ。